『神社 悪魔のささやき』は、神戸の廃神社で大学生たちが次々と“神隠し”のように失踪する事件をきっかけに、韓国からやって来た祈祷師(ムーダン)ミョンジンが調査に乗り出し、“悪しき存在”の正体に迫っていくシャーマニズム・ホラー。
生まれながらに祈祷師となる宿命を背負い、消えない過去の影に囚われる主人公ミョンジンを演じるのは、アジアを代表するアーティスト・俳優のJAEJOONG(ジェジュン)。キャリア初となるホラー作品で、内に闇を抱えた祈祷師役を演じ、新境地を切り拓いた。
メガホンを取るのは、『私の男』『#マンホール』などで国内外から高い評価を受けてきた熊切和嘉監督。人間の本質や極限状態の感情を鋭利に描いてきた熊切監督が、ミステリージャンル専門の製作会社ミステリー・ピクチャーズとタッグを組み、本作ならではのダークな恐怖表現を完成させた。
また、本作は第28回富川国際ファンタスティック映画祭「マッドマックス」部門にも出品され、オール神戸ロケという点でも大きな話題を呼んだ。実在する土地だからこそ、本作で描かれる“悪しき存在”は、単なる恐怖の象徴ではなく、人間の記憶や罪悪感、土地に蓄積された感情と結びついた存在として描かれる。そうした存在の捉え方が、西洋的なエクソシズムとは異なる、アジアの信仰と民間伝承に根ざした恐怖表現として、本作を唯一無二のホラー作品へと押し上げている。
共演には、大学生たちが参加する日韓文化交流プロジェクトのマネージャーを務め、過去にミョンジンと特別な関係だったユミをコン・ソンハが、ユミと学生たちを支える地元神戸の牧師・ハンジュをコ・ユンジュンが演じる。さらに連続テレビ小説「ブギウギ」や、第92回キネマ旬報ベスト・テン助演女優賞を受賞した『愛しのアイリーン』など、話題作に多数出演する名バイプレイヤー木野花が、ユミや学生たちが過ごす下宿先の大家・佐藤として脇を固め、作品世界に確かな厚みを与えている。
ここに、韓国のシャーマニズム的視点と、日本の風土と文化が交差する、新感覚のホラーが誕生した。
本作は、オール神戸ロケで行われた。セットを組まず、あえて現存する場所を選んだのは、作品が描く“霊的な恐怖”を、より現実に根ざしたリアルなホラーとして成立させるためである。神戸は、古くから交易拠点として発展し、外来文化や多様な宗教が流入してきた港町。その歴史的背景が、映画の持つ超自然的な空気や世界観に、確かな説得力を与えている。
「山、海へ行く」と後に呼ばれるようになった神戸市の開発事業の過程で、土砂運搬のために建設された全長14.6キロのベルトコンベヤ跡トンネルは、薄暗く閉鎖的だ。撮影にあたっては、その構造や質感を極力損なわない形で活用された。一般的なセットやCGでは再現し得ないリアルな空間性が、俳優の演技や現場の空気感に作用し、そのまま作品全体に反映されている。さらに、冷蔵倉庫や廃墟と化した工場も、稼働停止後の状態を保ったまま撮影に使用され、人為的ではない“場そのもの”が映画を形作っている。
また“バラックリン”と呼ばれる廃屋群は、登場人物たちの行動の場として、物語の重要な局面に用いられた。生活の痕跡が残る廃屋と、改装途中の構造物が混在する空間は、日常性と不安が交錯する独特の空気を生み出している。そこに、物語の情緒的な軸となる廃神社が加わることで、神聖さを失った場所特有の世界が、人為的な演出に頼ることなく描き出される。
このように、本作におけるロケーションは、単なる背景にとどまらず、ジャンル全体の世界観や感覚を現実と結びつける重要な装置として機能している。神戸という街が持つ、古い街並みと衰退の痕跡、そして再開発の過程で生まれた空白。それらが共存する場所として、本作は超自然的ホラーと物理的な質感を同時に受け止める舞台となった。観光やメディアを通じて伝えられてきた神戸のイメージとは異なり、産業遺産や放置された施設、可視化されてこなかった空間を積極的に取り込むことで、都市のもう一つの顔を浮かび上がらせる。観客は、これまで知っていた神戸とは異なる、異質な情緒をスクリーンの中で体感することになるだろう。