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“ソン・ガンホがポスターの中で笑う分だけ映画は悲しさを帯びる”。タクシーの中で明るく笑うマンソプが写し出されているポスターが韓国で公開された後、SNSに飛び交った言葉である。俳優ソン・ガンホを観客がどのように見ているかを端的に表わした文章だと言えよう。表向きに見せる単純な表情、その裏側にある動揺と葛藤、心の行方を複合的に生かした彼の演技により、観客はある一人の運転手を通じてタイムトラベルをすることになる。『弁護人』『王の運命』『密偵』の最近作において、それぞれ実在の人物を演じ、歴史の中の剥製であった彼らに命を吹き込んだ。そして今作では1980年5月光州の現場に直面した平凡なある市民の葛藤と選択、喜怒哀楽を新しい観点で描き出し、この時代の代弁者になったのだ。
【主な出演作】
映画『シュリ』(99)、『殺人の追憶』(03)、『グエムル-漢江の怪物-』(06)、『グッド・バッド・ウィアード』(08)、『義兄弟~SECRET REUNION』(10)、『弁護人』(13)、『王の運命 -歴史を変えた八日間-』(15)、『密偵』(16)
旧東ドイツ出身、20歳で4つの国境を越え、危険千万な道のりを経て旧西ドイツに亡命した青年は、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞したロマン・ポランスキー監督の『戦場のピアニスト』を筆頭に、『ワルキューレ』『キング・コング』『ウォンテッド』『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』などに出演し、ドイツの名優の座を手にした。映画の信ぴょう性を高めるためにドイツ人俳優を望んでいた監督が彼に出演オファーを出した時、現地エージェントは無理だろうと予想したが、英語に翻訳された台本を読んですぐにトーマス・クレッチマンは出演を快諾した。歴史が個人の人生にどのような影響を及ぼすのか、身をもって体験していた彼は、光州を取材した“青い目の目撃者”であるウィルゲン・ヒンツペーターの生き方と『タクシー運転手』が伝えようとした市民たちの物語に共感した。常に通訳を介して会話をするという大変な4カ月間で、言葉でなく心で韓国人たちと会話をしたピーターを彼はよみがえらせた。
【主な出演作】
映画『スターリングラード』(93)、『U-571』(00)、『戦場のピアニスト』(02)、『ヒトラー ~最期の12日間~』(04)、『Uボート 最後の決断』(04)、 『ワルキューレ』(08)、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(15)
光州のタクシー運転手ファン・テスルは光州人を絵に描いたような人物だ。妻と息子を持つ平凡な家長であり、市民である。客人が来れば食事に招き、困っている人がいれば必ず助けるという人の道理に忠実なファン・テスは、どんな役を演じても、その人物の根底にある人間味を引き出すユ・ヘジンによって“喜怒哀楽のはっきりした光州人”そのものを感じられる人物として演じられている。当時の光州の人々の日常と感情の動きがユ・ヘジンを通じて見えてくる時、光州はすでに過ぎ去った過去ではなく、現在を生きている人々の話として見ている観客の心に迫り来る。『LUCK-KEY/ラッキー』『コンフィデンシャル/共助』『ベテラン』など、多くの作品において、実直で温かい人間の姿を見せてきたユ・ヘジン。彼は『タクシー運転手』においても変わりなく人の温もりを伝えている。ユ・ヘジンでなければ一体誰が“ここは俺たちに任せて、早く帰ってください”という一言をあそこまで実感のこもった演技にできただろうか。
【主な出演作】
映画『王の男』(05)、『黒く濁る村』(10)、『情愛中毒』(14)、『パイレーツ』(14)、『極秘捜査』(15)、『国選弁護人 ユン・ジンウォン』(15)、『ベテラン』(15)、『LUCK-KEY/ラッキー』(16)、『コンフィデンシャル/共助』(17)
「恋のスケッチ~応答せよ1988~」では平凡で親近感あるイメージで人気を博したリュ・ジュンヨル。しかし、今回の作品で新しい魅力溢れる彼に改めて驚かされる。『グローリーデイ』と『ザ・キング』などを通じ、キャラクターの主観と現実の狭間で押し潰される姿を演じ、誰もが出会ったことのある“近所のお兄さん”的な親近感を私たちに与えてくれたリュ・ジュンヨル。今回、彼は『タクシー運転手』で1980年の光州に生きる平凡な大学生を演じた。ピーターの通訳としてタクシーに乗り込んだジェシクを通じマンソプとピーターは光州の人々と出会う。時代の不義と闘う運動家ではなく、ただ大学歌謡祭に出たくて大学に入ったと本音を話すジェシクを演じるリュ・ジュンヨルの明るい笑顔は、当時の光州の人々が巻き込まれた状況が彼らの何を奪っていったのか、より鮮明に観客に訴えかけるのではないだろうか。
【主な出演作】
映画『ソーシャルフォビア』(15)、『ロボット・ソリ』(16)、『奴隷の島、消えた人々』(16)、『グローリーデイ』(16)、『ザ・キング』(17)
ドラマ「恋のスケッチ~応答せよ1988~」(15)、「運勢ロマンス」(16)

Staff

初監督作品である『映画は映画だ』から『義兄弟』まで、チャン・フン監督は自身の選択とは無関係な状況に置かれた対極を扱った人物たちの共感と彼らの選択に関する物語が注目されてきた。撮影現場で体当たり演技に挑む俳優と元ヤクザのアクション俳優、北朝鮮に捨てられた工作員と元国家情報員、朝鮮戦争の停戦間近という時期に、ある高地を巡り死闘を繰り広げた朝鮮人民軍と韓国軍、追い込まれた状況において、最終的には人間として共感できる人物に描き出し、彼らが共存してゆく様を立体的なキャラクターと共に表現してきた彼は、『タクシー運転手』を通じて1980年5月の光州に目を向け、ドイツ人記者を乗せて光州に行った平凡なタクシー運転手マンソプや光州で出会った人々をスクリーンに描き出した。 “人々の日常を奪った悲劇的な事件の中で、彼らは自分の良心や常識、そして決断によって生きた。この映画を通じて、平凡な人々のドラマティックな話を観客に伝えたい”
【作品歴】
 『映画は映画だ』(08)、『義兄弟~SECRET REUNION』(10)、『高地戦』(11)

Director’s Message

始まりは1980年5月の光州を取材したユルゲン・ヒンツペーター記者、そしてソウルから彼を乗せて光州まで行った一人のタクシー運転手キム・サボクの話だった。韓国現代史の大きな痛みである事件を扱うというプレッシャーがなかったとは言えない。“果たして私がこのようなスケールの大きな事柄を映画にできるだろうか”という怖さが先に立った。

そんなプレッシャーにもかかわらず『タクシー運転手』に私自身が引き込まれていった動力とは、マンソプとピーターという2人の主役のおかげだ。当時ユルゲン・ヒンツペーターは日本特派員として仕事をしていた。そんな中、韓国の状況を聞いて躊躇することなく光州に取材に来た。一体何が彼をそこまで突き動かしたのか。そして偶然にも彼に同行することとなった平凡なタクシー運転手は、共に行動する中で何を見て何を感じたのか。そんなマンソプの目に映った時代の姿と彼の心が大きく揺さぶられる様を描きつつ、歴史上の偉人が成し遂げた大きな事柄ではなく、普通の人々の小さな決断と勇気が積み重なり何かが成し遂げられるといった、近くで見ていなければ知り得ない事柄を描きたかった。マンソプのタクシーに乗りながら、観客の皆さんにも、自分たちの話として考えてもらえる機会になれば嬉しい。

この話は平凡なタクシー運転手と外国人記者、それから光州で出会う2人の視線を通じて描かれる“あの日”に対する物語だ。そして平凡なある個人と時代が生んだ、危険な状況に負けず、最後まで自分の仕事を成し遂げたという話でもある。

——— 監督 チャン・フン

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